「インド」と聞いて、何を思い浮かべるでしょうか。

カレー、ガンジス川、牛が道を歩いている光景。だいたいこのあたりだと思います。わたしも住む前はそうでした。

ただ、その絵は20年前のインドです。いまのインドを一言でいうと、人口が世界一で、スマホ決済が屋台まで行き渡っていて、世界中の企業が工場と拠点を置きに来ている国です。カレーもガンジス川も牛もちゃんとありますが、それはインドの一部でしかありません。

このシリーズでは、インドという国を地理・言語・宗教・お金・生活といったテーマごとに分けて、順番に見ていきます。まずは全体像からです。

1. 人口が世界一になった

インドは2023年に中国を抜いて、人口が世界一の国になりました。いまは14億人を超えています。

数が多いこと自体より、注目されているのは年齢のほうです。

インド 日本
人口 約14億人 約1億2千万人
年齢の中央値 20代後半 40代後半

年齢の中央値とは、全員を年齢順に並べたときのちょうど真ん中の人の年齢です。インドは20代後半、日本は40代後半。つまりインドは「国民の半分が20代以下」の国です。

街を歩いていると、この数字は体感としてよく分かります。とにかく若い人が多い。大学の前も、ショッピングモールも、駅も、平均年齢がはっきり低いのです。

働く人がこれだけいて、これから物を買う人がこれだけ増える。これが「人口ボーナス」と呼ばれるもので、インドがいま注目されている一番大きな理由です。

2. 経済が伸び続けている

インドの経済規模(GDP)は、いまや世界で5位前後です。日本やドイツと順位を争うところまで来ていて、2030年前後には3位に入ると見られています。

ただし、一人あたりで見ると話は変わります。国全体では大きくても、人数で割ると日本の10分の1以下です。つまりインドは「豊かな国」ではなく、「人が多いので全体としては大きい国」です。ここを取り違えると、インドの見え方を間違えます。

そのうえで大事なのが、中間層の存在です。割合としてはまだ3割ほどですが、母数が14億人なので、人数にすると4億人以上になります。アメリカの人口より多い計算です。

インドを見るときのコツは、「割合」ではなく「人数」で考えることです。「たった1%」でも1,400万人います。東京都の人口と同じくらいです。

3. 現金が消えた国

インドに来て一番驚くのは、たぶんこれです。支払いがほぼ全部スマホになっています。

UPIという仕組みがあって、QRコードを読み取って金額を入れるだけで、銀行口座から相手の口座へ直接お金が飛びます。手数料はかかりません。

そしてこれが、高級レストランだけの話ではないのです。

このあたりまで、だいたいQRコードの紙が貼ってあります。10ルピー(約18円)のチャイもスマホで払えます。

日本のキャッシュレス化はクレジットカードや各社のアプリがバラバラに広がりましたが、インドは国が規格を1本に決めて、どのアプリからでも同じQRコードが使えるようにしました。だから一気に広がったわけです。

ちなみに観光で来た人がこのUPIを使うのは、現時点ではかなりハードルが高いです。インドの銀行口座と、インドの電話番号が必要になるからです。ここは別の記事で詳しく書きます。

4. 「ITの国」になった理由

インドといえばIT、というイメージは、いまはもう正しいです。

バンガロール(現在の正式名称はベンガルール)は「インドのシリコンバレー」と呼ばれていて、世界中のIT企業が開発拠点を置いています。GoogleもMicrosoftも、トップに立っているのはインド出身の人です。

理由はいくつかあります。

  1. 英語が通じる — 植民地時代の名残で、高等教育は英語で行われます
  2. 理数系の教育が強い — IIT(インド工科大学)を頂点とする、かなり厳しい理系教育の層があります
  3. 時差 — アメリカが夜のときにインドは昼。24時間体制の開発や、サポート業務を回しやすい

この3つがそろっていたので、まず「欧米企業の下請け」として仕事が集まり、そこから自前のIT企業やスタートアップが育っていきました。

5. それでも、思った通りのインドもある

ここまで「イメージと違う」話をしてきましたが、一方で想像通りのインドもちゃんとあります。

停電します。断水します。道は混んでいて、クラクションが鳴りやみません。役所の手続きは何度も足を運ぶことになります。約束の時間はだいたい守られません。

最新のスマホ決済と、昔ながらのカオスが、同じ場所に並んで存在している。これがいまのインドです。どちらか片方だけを見ると、インドを見誤ります。

このシリーズで扱うこと

次の記事からは、テーマごとに掘り下げていきます。

  1. なぜ今インドなのか(この記事)
  2. 地理と気候 — 日本の約9倍の国土で、地域ごとにどう違うのか
  3. 言語 — 公用語が22もある国で、何語が通じるのか
  4. 歴史と宗教 — いまのインドがどうやってできたのか
  5. 隣国との関係 — パキスタン、中国、ネパール、バングラデシュ
  6. 食文化 — 北と南で主食からして違う

旅行で来る人にも、仕事で関わる人にも、ただ興味がある人にも、同じくらい役に立つように書いていきます。